思い入れのある大切な時計を長く使う上では、避けては通れない「時計のオーバーホール(分解清掃)」
メンテナンス費用の中でも、精密機器である時計を分解・清掃・交換・調整・組み上げることもあり、数万円の出費を覚悟する部分になる。
そんな時計のオーバーホールは大体いくら必要なのか、依頼先の選択肢と選ぶポイントについて見ていこう。
目次
時計オーバーホールの費用目安
初めに、代表的な時計のオーバーホール費用を表でまとめたので、そちらを見て頂きたい。
ブランド名 | メーカー依頼 | 民間修理店依頼 |
ロレックス | 43,000円~100,000円 | 25,000円~60,000円 |
オメガ | 45,000円~99,000円 | 21,000円~50,000円 |
セイコー | 5,000円~108,000円 | 4,000円~90,000円 |
タグ・ホイヤー | 30,000円~105,000円 | 15,000円~50,000円 |
ざっくり表を見て頂くと、メーカー対応の場合は10万円前後の予算があれば安心、民間修理店はメーカー対応の60%~70%程度の金額が費用目安といった所だ。
※時計をオーバーホールに出すタイミングや部品在庫の関係もあるため、参考程度にお考え下さい。
アンティークモデルや、特殊な機構の時計に関してはオーバーホール費用が高額になることもある。民間修理店では受け付けて貰えない場合もあり、選択肢がメーカー対応に限定されてしまうモデルがあることを頭に入れておこう。
表を見る限り、メーカー依頼よりも民間修理店に魅力を感じる人も多いと思うが、「オーバーホールに求めるもの」によってはメーカー対応がベストな選択肢になることもある。
まずは、時計オーバーホールの依頼先について【メーカー対応・民間修理店の違い】を知っておこう。
時計オーバーホールの依頼先の種類、特徴について
基本的に、時計をオーバーホールに出す際の依頼先は、メーカー対応又は民間修理店の二択になる。
メーカー対応とは、時計を生産しているメーカーに直接オーバーホールを依頼する方法
民間修理店とは、生産メーカーではない、非正規の時計修理店にオーバーホールを依頼する方法
ネット上で仕上がりの画像を見ても違いは一見して分からないが、それぞれに特徴があり品質も異なる。どちらに依頼するのがベストなのか、メーカー・民間修理店それぞれの特徴や違いを知って考えてみよう。
時計のオーバーホール「メーカー対応について」
メーカー対応は、その時計メーカーの修理工場でオーバーホールされるため、仕上がりの品質、安全性共に最も優れた選択肢になる。
メーカー対応の特徴として
- リスクが最も低い
- 品質の保証がされる
- 料金が高い
- 作業期間が1か月半~半年と長い
などが挙げられる。
それぞれの理由を詳しく見ていこう。
1リスクが低い
時計の設計・生産・販売を行っているメーカーへ直接依頼するため、最も安全に作業を行える環境が整っている。
分解清掃・部品交換・内部調整も最高のクオリティーで仕上げてくれるので、オーバーホール後に不具合が起きる可能性も限りなく少ない。輸送時・作業中の破損など、万が一の補償に関しても、メーカー側が責任を持って対応してくれるので安心して任せられる。
民間修理店の中には、安心保証と言いつつ、細かい文字で注意事項が書かれており、結果として保証内容が不十分というケースもあるので、よく確認しておくことをオススメしたい。
2 品質が保証される
例えば、ロレックスやオメガなどのメーカーではオーバーホール後の2年間、無償で修理保証を対応する保証がある。民間の修理店では1年間の保証をよく見かけるが、メーカー対応の場合はそれより長期の保証が付くことも多い。
このような長期保証は、オーバーホールにおけるメーカー品質の自信の表れともいえる。
メーカーによる対応は、「品質を保つ」ことに主眼を置くため、民間の修理店よりもパーツ交換が早く、長い期間トラブルなく使える状態に仕上げてくれる。
3 料金が高い
メーカー対応のオーバーホールで一番ネックな費用面について。
何故高いかは、メーカー本国にある海外工場へ輸送したり、部品の劣化交換が早めであり、全て純正品で交換するなど、様々な背景によるものである。
メーカー独自の高い品質基準・細かい検査内容を経てオーバーホールが完了することもあり、民間修理店では見落とす可能性がある微細な問題まで対応してくれる分、費用面もやや負担が大きくなってしまう。
4 作業期間が長い
海外の修理工場へ輸送する時間、作業工数の多さ(メーカー基準の品質検査など)、対応の順番待ちなど、色々な事情が重なることもあり、1か月半~半年の時間を要することになる。
世界中の時計ユーザーから依頼があるため、時期・モデルによっては半年以上の時間を要する可能性もあるので注意。
数百万円する高級時計に関してはメーカー対応にこだわる人も多い。作業期間の長さや価格の高さは、人気が高い印と考えてもいいかも知れない。
時計のオーバーホール「民間修理店について」
民間修理店とは、ヨドバシカメラなどの家電量販店などでみる「時計修理店」のことだ。
メーカー依頼は正規店での対応となるが、それ以外の修理店は非正規店である。しかし、非正規だから必ずしも質が低いとは限らない。もちろん、メーカー対応と違って修理店毎に質が異なるため、優良な修理店を探しが大切になってくる。
民間修理店の特徴として
- 利便性が高い
- 業者毎の技術・対応に差がある
- 費用は安い
- 作業期間が短い
などが挙げられる。
それぞれの理由を詳しく見ていこう。
1利便性が高い
民間の時計修理店は、近隣駅やホームセンター・家電量販店・商店街などに店舗があるため、移動のついでに依頼することができる。また、本来メーカーでは対応していない時計カスタムなどの注文できる場合もある。メーカーに依頼するのであれば、お客様センターや修理サポート窓口に持ち込み・郵送する必要がある。
メーカー対応の手間と比べれば、民間修理店のほうが気軽に利用しやすい環境にあるだろう。
2業者毎の技術・対応に差がある
冒頭にも書いたが、メーカー対応と異なって修理店毎に差異が生じる。
仕上がりについての基準もバラバラであり、作業する時計技師のレベルや知識も違う。時計のオーバーホールは数百あるパーツを分解・洗浄・調整・組み立てを行っていく緻密な仕事であるから、質の良い業者を選ぶことは非常に重要だ。
民間修理店へ依頼するのであれば、3社以上の業者へ見積もりを依頼し、その対応や口コミ・料金を比べて総合的に判断しておきたいところ。
3費用は安い
メーカー対応と比較すると、低コストで時計のオーバーホールが依頼できる。
(※おおよそメーカー対応の60%~80%くらいの価格帯)
メーカー対応は部品劣化の見極めが早く、早期交換・品質保全といった具合なので高コストになるのだが、民間修理店の場合は部品交換の基準が少し緩いため、摩耗や劣化を確認してから交換することが多い。
民間修理店の部品交換で注意すべきは、純正品以外のパーツを使って組み上げてしまう可能性があることだ。
この場合、正規サポートの対象から外れることは勿論、不具合を誘発することも考えられるため、よく確認しておこう。モデルによっては修理業者にパーツ在庫が無く、対応が困難な事例もあることを頭に入れておきたい。
4作業期間が短い
メーカー本国へ輸送する必要が無いこともあり、2週間~1か月で対応してくれるところが多い。
混雑具合もメーカーに比べれば落ち着いていることもあり、比較的スグに対応してくれるだろう。近隣の店舗であれば郵送する必要もないため、作業期間はグッと短期になっている。
品物によってはメーカー対応と変わらない期間を要する時計も一部ある。
時計のオーバーホールをコスパで考えてみる
メーカー対応・民間修理店の特徴を解説したが、結局時計のオーバーホールを依頼するお店はどう選べばいいのだろうか。
筆者のオススメは、品質と料金のバランス、つまりコストパフォーマンスに優れた依頼先を選ぶべきだ。
逆に、以下に当てはまる人はコスパで選ぶべきではなく、メーカー対応をオススメする。
- 代々受け継ぎたい、生涯を共にしたい時計である。
- 手間を掛けず、安心・安全にオーバーホールを行いたい。
上記に当てはまらない方は、メーカー対応が必ずしも一番いい選択とは限らない。時計の購入金額に合わせてオーバーホールの費用も高額になっていくため、メーカー依頼と民間修理店の価格差は無視できない金額になるだろう。
ただし、低コストに拘って依頼先を探すことは避けて頂きたい。
勝手に純正パーツを非正規パーツと交換したり、保証内容が不十分だったり、アルバイトがマニュアルで作業しているだけだったりとトラブルの種を孕んでいる業者かも知れない。
依頼人の無知に漬け込んで、必要ない作業内容を含んで見積もりを提示する悪質店もあるため、必ず複数の修理店へ見積もりを依頼し、内容を比べて検討することを強く勧めたい。
複数の民間修理店を検討した結果、不安であればメーカー依頼に、納得いく業者が見つかればそのまま進めよう。
時計オーバーホールの業者を探すときにチェックしておくこと
時計のオーバーホールを依頼する上で、最も大切な「業者選び」
時計修理店をインターネット検索すると、様々な時計修理業者がヒットする。しかし、上位に表示されている修理店や、デザインの優れているサイトが質の良い修理店とは限らない。
大切な時計を預けるのであれば、質の悪いお店をなるべく回避できるように、筆者オススメの業者チェック項目をご紹介しよう。業者選びは、費用の安さやスピード感だけを重視せず、保証内容や接客対応・口コミもしっかりと見極めることが大切。
具体的には、以下の項目をチェックしておくと、悪質店に引っ掛かってしまう確率は大きく下がる。
- Google Mapの口コミをチェック
- SNSで評判を見る
- アフターケア・各種保証、保険の有無
- オーバーホールの概算価格を提示しているか
各項目について、理由含めて説明していこう。
Googleで口コミをチェックする
一つ目は、口コミをGoogle Mapでチェックすることで、その業者の実態をつかめる場合がある。
口コミを調べることは当たり前であるが、ネット検索で口コミを探しても信頼性のある情報を得られる可能性は低い。ネット検索で良い評判の口コミが多い修理店でも、GoogleMapを閲覧すると低評価が多いなんてケースもある。ネット検索で表示されるブログや口コミサイトなども、広告として金銭を支払って都合よく記載してもらうことも可能なので、イマイチ信憑性に欠けるのだ。
GoogleMapの場合は、こうした対策がGoogle上で禁止されていることもあり、サクラの口コミは削除されるため、信憑性の高い口コミを見ることができる。
SNSで評判を見る
二つ目は、SNSでの評判チェックだ。
Twitter・FaceBook・Instagramなどの主要SNSで検索すると、実際に依頼した人の見積もり書や口コミを見ることができる。こちらも一部は広告として嘘の口コミが流されていたりするのだが、比較的信憑性は高いため、チェックしておきたいところ。
ユーザーがアップロードした画像や動画で仕上がりをチェックできるのもポイントが高い。
ネットの画像検索で上位表示される時計修理店のサイトには、SNSやブログ上の画像を引用して勝手に掲載している悪質な業者もあるため注意が必要。
アフターケア・保証・保険の有無
三つ目は、主に安全性のチェック。
宅急便で業者に送る場合は、宅配保険が適用されるか。オーバーホール後に保証があるか、アフターケア期間はどの程度なのかを必ずチェックしておこう。特に保証・アフターケアに関しては文面で読んだだけでは不明確なことも多いので、電話やメールで確認しておくと良い。
作業後の保証=仕事に対する自信と判断することもできる項目なので、見落とすことが無いようにしておきたい。一方で、パッと見た感じ良さそうな保証を掲げている場合でも、細かい内容を見ると条件面が厳しく、ほぼ適用されないこともあるので注意だ。
メール記録は法的な資料として有効なので、万が一の際には証拠として利用できる。
オーバーホールの概算価格を確認
四つ目は、怪しい業者を回避するための項目になる。
オーバーホールに関して、正確な金額は実物をチェックしないと弾き出せないが、大体の概算価格は提示できるはずだ。中には、「一度送って貰わないと分かりません」なんて業者もいる。「時計さえ送られてしまえば多少高い見積もりを出しても、めんどくさいからそのまま依頼してくれるだろう。」こうした悪質業者は結構多いので注意。避けるためにも、事前におおよその価格を教えてくれるお店を選ぶようにしておこう。
もちろん、部品交換や状態で価格が変わるのは当然だが、「送って貰わないと何も言えません」という業者には注意。結果として返却を求めた際に着払いで返送されるケースなどもよくあり、トラブルに遭遇してしまう可能性が高くなってしまうだろう。
以上の4項目を調べた上で、候補の時計修理店から見積もりを貰った上でオーバーホールの依頼先を検討するといい。
オーバーホールの依頼先についてのまとめ
時計のオーバーホールの依頼先・特徴・選び方について解説させていただきました。
メーカーへの依頼が最も良い仕上がりなのは間違いないが、費用面や期間を考えると民間修理店の選択肢が現実的であるケースが多い。時計修理店は家からの距離や価格・スピードだけでなく、品質と価格のバランスで選ぶと失敗が少ないというのが筆者の考え。しかし、民間修理店選びは「技術や保証」などの質に差が出てくるため、しっかり選ばないと後悔することになってしまうだろう。
具体的には、見積もりの項目数・価格・期間・保証・保険内容を確認し、メーカー対応の価格と質・民間修理店の価格と質を比較して、自分に合うオーバーホールの依頼先を探してみよう。
時計の売買・修理など専門的な分野においては、その専門性の高さに漬け込んだ悪質店が潜んでいるので、複数のお店とやり取りし「明らかに変だな。」と感じる業者を察知できるように心がけておきたい。このあたりは経験がモノを言う部分なので、複数社へ見積もりを出して「査定比較」をすることは、一番大切なことなのだ。
類似した記事は他サイトにもいくつかあるが、依頼先のチェック項目などが具体的でなく、イマイチ探し方が分かりにくいと感じたため、より具体的なチェック方法の紹介を含めた記事を作成してみた。
あなたの時計をオーバーホールするための「民間修理店探し・メーカー依頼の検討」に貢献できれば幸いです。